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きっとそれは、3秒にもみたない時間だったと思う。
けれど、俺にはものすごく長い時間のように感じた。
「ぼくがはおをまもるから」
いつの間にか離れていった唇が紡いだのは、重く決意めいた言葉。
彼の大きな瞳に反射した自分の顔が、驚きに満ちている。
それもそのはずだ。
だってそれは、俺が稔に教えた“告白”の言葉だから。
“『好きな子が出来たら、その子に言ってやるんだ』”
いつかの日に言った俺の声が脳内でリピートされる。
“『俺が君を守ってやる!ってな』”
その言葉を稔は覚えていたのだろう。
でもまさかそれを言われるのが自分になるとは、あの時の俺は到底思いもしない。
こういう場合、どうしたらいいのだろう。
『将来はパパと結婚する!』と“息子”から言われた父親は。
何て言うのが正しいのか、なんて俺には分からない。
だけど、彼を悲しませるのだけは違う気がした。
「……ありがとう。稔」
否定も肯定もしない。今はこれが精一杯だ。
父親としては間違いを正すべきなのかもしれない。
それでも、この笑顔をみたいから。
今だけはダメな父親で居させて。
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