8人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「……めて……」
蚊の鳴くようなか細い声が耳を掠めた気がした。
ハバはぐるりと首を回してみる。
――誰もいない。気のせいだろうか。
「やめてください……」
一歩踏み出したと同時に確かに届いた。
大通りから伸びた細い路地に複数の人影がある。
どうやら声の主はそこにいる少女のようだ。
小柄な見た目からして中学生くらいだろうか。
高い位置で括られたスポーティーなポニーテールが印象的だ。
白のワンピースとその上を横断するショルダーバッグは、薄暗い路地によく映える。
そして彼女の前にはスーツ姿の若い男が一人、その横に似た格好の男がもう一人立ちはだかっている。
「戻ってもらわなきゃ困りますよ。そういう約束なんですから」
「行きません、通してください」
少女は頼りない声ながらも拒否の言葉で突っぱねる。
「いい加減つべこべ言わずに……!!」
「きゃっ!!」
一人の男が少女の腕を掴んだ。
少女は前にバランスを崩しその拍子に地面に倒れた。
「何やってんだよ、顔に傷でもついたら……」
「あ、ああ」
動揺する男達を制するように、
「おい大丈夫か?」
そう少女に声を掛けたのはハバだ。
最初のコメントを投稿しよう!