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弟が死んだ。
横断歩道を飛び出して、居眠り運転のトラックに撥ねられて、そのまま戻って来なかった。
本当に……本当に、一瞬だったんだ。
あまりに突然の出来事に、「嘘だ」と事実を否定する隙さえ与えられなかった。
血塗れでボロボロになった体。
どこも見ることのない虚ろな目。
アスファルトにジワジワと広がる血。
命が尽きる様を、心臓の止まる瞬間を、自分の魂の半分が欠けていくような思いで、ただ見詰め続けることしかできない。
――今、オレが抱えている、満身創痍の男は誰だ?
弟? それとも、オレ?
不思議なことだとは思うが、弟の臨終は自分自身のそれに立ち会っているような気分だった。
カズキ。
双子のオレの弟。
同じ顔と遺伝子を持つ弟。
オレの魂の半分とも云える弟。
その弟が虫の息なのは、誰のせいだ?
――どうしよう。
――どうしよう、オレのせいだ。
事故の直前、オレと弟は一緒にいた。
あの横断歩道を渡るか否かで運命は分かたれたのだ。
横断歩道に差し掛かった所で、歩行者信号の青い光が明滅する。
オレは反射的に駆け出して、向こう側へと渡った。それが誤ちだとは気付かずに。
弟は横断歩道を渡らず、こちらに手を振って、こう言うのだ。
「すぐに行くから、待ってて」
その言葉通り、青信号になった途端に弟は飛び出し、悲劇が起きた。
選択を間違ったのは、オレだ。
オレが無理に横断歩道を渡らなければ、弟は飛び出すことはなかった。
別に、先を急ぐ必要なんてなかったのだ。なのに、どうして渡ったのか。
(オレの誤った判断が、カズキの命を奪ってしまった)
事故は、危険な運転をした運転手が勿論悪い。
でも、弟が飛び出した原因はオレにある。
病院に親が駆けつけ、変わり果てた姿の弟を見た時、オレは自分の犯した罪を懺悔し、謝罪した。
父は歯を喰い縛り、拳と声を震わせて、弟に向かい「バカタレ」と呟く。
「慌てなくても、コウイチはいつもお前を待っていただろう」
母はオレに駆け寄り、抱き締め、「貴方のせいではない」と言った。
――誰も、オレを責めないんだ。
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