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火葬後の晩は、なかなか寝付けずにいた。
この三日間はほとんど寝ずの番で、心身ともにクタクタなのに、妙に不安で休めないのだ。
ついこの間まで、当たり前のようにあった存在が傍らから欠けているのが、とても心許ない。
ふと、机上に置かれた"ある物"が目に止まり、起き出してそれを取る。
掌にすっぽり収まるほどの小さな丸い缶。中には大切な物が入っている。
欠けてしまった弟の気配を求めるように、手中のほんの僅かな重みを確かめて、丁寧に机上に戻してから床に就いた。
『ねえ、コウイチ、どこに行くの?』
布団の中で微睡んでいると、不意に誰かが尋ねてくる。
オレは、『神社』と答えた。
『それなら、今はまだ駄目だよ』
声が告げる。
(そうか、駄目なのか)
たった一言、否と言われただけで、すんなりと納得したところで我に返った。
「カズキ!?」
もういない筈の人の声に、飛び起きる。
弟はいない。夜の闇も消えていて、目の前には、朝の陽光で満ちた部屋が広がっていた。
(夢?)
束の間の会話は、どうやら現実のものではないらしい。
あまりにも声の質感がリアルで、今でもまだ耳に残っているようだ。
(まだ、魂はここに留まっているのか?)
耳を塞いで瞑目し、集中して弟の気配を探る。
求めるものは感じられず、落胆した。
夢の内容が気になって、それとなく、今、神社に行っては駄目なのかと親に尋ねてみる。
すると、二人は何故オレがこんなことを訊くのか首を傾げながらも頷いた。
「神様は、死を最も重い穢れとして忌み嫌っている。だから、家族を亡くした者は、その穢れを神域に持ち込まない為に、忌中の神社への参拝は禁じられているんだ」
(なんだ、穢れって。そんなの迷信だろ)
説明を聞く傍で、微かな苛立ちが募る。
穢れ。
オレにはこの言葉がどうしても、死者を貶すようなものに感じられ、弟を思うと、どうにも遣る瀬なかった。
なんとなく、土の中で朽ちていく弟の姿を想像して、気が滅入る。
(あいつだって好きで死んだわけじゃないのに。ああ、でも、どうする?)
脳裏に浮かぶのは、老いぼれ桜の許にいる弟。
その桜は、神社の境内にある。
火葬の時からずっと、そこに行きたいと思っていたのだ。
(でも、あいつは神社に行くなと言った。なら、仕方ないか)
たとえ夢だとしても、弟が望まないのなら、無理に行くことはできない。
「……」
胸の奥にモヤモヤとしたものを感じ、オレは密かに吐息した。
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