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思わず男から目線を外せば、自分が震えている事に気が付いた。男の骨ばった手が俺の頬へと触れられる、殺される。そう思った時、今までの雰囲気とは打って変わり、とても優しい感触が額に降りてきた。
「庶民は庶民でも、お前は違う」
あまりの衝撃に動けずにいれば、男の手が顎に当てられ上へと向かされる。自然と外れていた視線が合わさり、ただ視線が合っているだけなのに、なんとも言えない空気があった。自分でもわかるほど顔が赤くなっていく。
そのまま男に唇を奪われた。
口付けはどんどん深さを増して生き、まるで食されている気分になる。
「んっ……はぁ…っ」
男の唇が離れ、どちらのとも知れぬ唾液が糸を引く。
荒い息をしている自分に対し、男は優雅に微笑む。
そして、男と俺は見つめ合いながら、どこからとも無く現れた黒い穴へとゆっくりと落ちていく。
「ようこそ…我が国へ」
私の愛する犬よーー。
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