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「なんだおまえ、迷子かよ」
だだっ広い志波家の庭園でまさしく迷子になっていた伊織は、声が降ってきた頭上を仰ぎ見て、「そうなんですー」と情けない声を出した。
真っ赤に紅葉した樹の上から、人影が降ってくる。
それが真上からでも、伊織は避けなかった。
キラッと陽光を弾いた濃い金髪に目を奪われて、それが自分の上に降ってくるのをただ見守った。見惚れた、とも言う。
「バッ・・・、よけやがれっ、アホウ!」
ガツッ。
肩や腕に衝撃がきて、ぐいと頭と首を力強い腕に抱きこまれながら、伊織は土の上に倒れこんだ。
パラ、と散った紅葉が、地面すれすれをすべる。一度だけくるりと鮮やかな紅色を翻してから、すでに散り落ちた葉の上に、そっと重なるように身を横たえた。
伊織は思わずそれをしんと見守ってから、打ちつけた時に眼鏡が食い込んだ顔や腕がズキズキと痛むのを、涙声で訴えた。
「いた、いたたたたっ。顔痛いっ、あ、腕も・・・う・・・痛いです」
伊織を上から蹴飛ばしながらも、かろうじて腕にかばって倒れこんだ金色の人影が、ガバリと上体を起こして伊織の肩に手を置いた。
「おい、なんだ、まさか腕折れたとか言うんじゃねーだろうな?!」
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