伝説のはじまり

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『お~やっぱヒロか。久しぶりやのぉ。今日はラッキーやったな!けどな、お前が乗る馬、あれメチャクチャ気性荒 いから気ぃつけや。ま、良血馬や言うて騒がれた時期もあったけど今や未勝利8連敗中や。次のレースも14番人気やし、期待はさほどしてへんから落馬だけはすなよ。』 そういって俺の肩をポンと叩いてテツさんは去っていった。 (気性が荒い8連敗中の良血馬か…) まぁいい。俺はそういう謎めいた馬の方が燃えるタイプだ。 いつになくやる気になった俺は、足早にパドックに向かった。 目の前には16頭のサラブレッド達がすでにパドックを周回していた。 俺が乗る馬はゼッケン16番だ。 どれかな~とゼッケンに目をやると、〈ラストレジェンド〉と書かれたその馬は、ピカピカに絞れた馬体で、いかにも良血馬と言うか、独特のオーラを持っていた。 パドックでは、ただ一頭、ラストレジェンドだけが荒れまくっていた。 調教助手の二人引きにも関わらず、首を激しく上げ下げし、時折立ち上がりそうな仕草もしていた。 (テツさん、マジやないか。) けど、俺はこの手のタイプは嫌いじゃない。 そして、しばらくして俺の前にやってきた。 まず目があった。 (眼力が強い!) 次にトモに手を当てた。 (んっ!見た目以上に筋肉が柔らかい。自在に走れるんじゃないか?!) そして、ラストレジェンドの頬を撫で、さっと彼の背にまたがった。途端に暴れようとしたが、俺はすかさずいさめた。レジェンドは意外に感じたのか、俺を見ようとしたので、もう一度頬をポンと軽く叩き、ささやいた。 『俺がお前のチカラ、引き出したる』 ブルンッと大きく鼻をならしたレジェンドは、まるで俺に返事をしたかのように、それまでとは様子が一変した。 力強く胸を張り、堂々と闊歩し出したのだ。 その凛とした風格は、G1を7勝した父親のビクトリーレジェンド産駒であることを改めて周囲に思い出させる程だった。
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