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翌日の新聞にはレジェンドの事が取り上げられていた。
【ついに良血馬、ラストレジェンド覚醒!】
調教師のテツさんのコメントでは、俺の騎乗がレジェンドの才能を引き出したとあるが、新聞の論調では全く俺に触れていない。
(ま、そんなもんかな)
俺は手にしていた新聞をゴミ箱にポンと投げ捨て、いつものパチンコ屋に向かった。
ウトウトと半分寝ながらパチンコをしていると、ポケットの中の携帯が鳴り、邪魔をしてきた。
(誰やねん…)
画面を見ると、そこにはレジェンドに騎乗する予定だった同期の田辺の文字があった。
(そう言えば、田辺になぜあの時レジェンドに乗らなかったのか聞いてなかったな。)
そう思った俺は電話に出た。
「おぅ!どうした?」
「昨日の未勝利戦、勝てて良かったな。桐谷ならあのジャジャ馬を乗りこなせると思ったよ。」
「そんな風に言ってくれるの、田辺だけやで。」
少し照れくさかった。
しかし、聞きたいことはこの後だ。
「て言うか、田辺。なんで騎乗を断ったんや?お前なら乗りこなせたやろ。」
少しの沈黙の後、
「俺らがデビューした頃さ、同期の中で桐谷だけ凄かっただろ。誰よりも馬の良さを見抜いて、誰よりも馬の能力を引き出していたもんな。けどあの事故以来、桐谷自身の良さすら忘れてしまったんじゃないか。俺はそんな桐谷にいつか昔のように戻って欲しかったんだ。だから…」
いつも、くだらない冗談を言う田辺がやけに真面目に話してくれた。
「田辺…。お前、そんな風に思っててくれてたんか。ありがとう。なんか忘れてたもんをあのレースで思い出した気がするわ。」
実際の所、あのレースまでは、事故を恐れて無難に乗っていただけだ。馬込みを割ったり、インを差す騎乗はここ何年もしていない。レジェンドと走ったあのレースはそんなこと考えもせず、ひたすら夢中になっていた。
田辺とは今度、飲みに行く約束をして電話を切り、俺はそのままパチンコ屋を後にした。
気がつけば、俺はレジェンドの厩舎に向かっていた。
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