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ある大きな洋館の二階の小さな窓から、夜空を見上げる女性がいた。青い瞳には銀の星々を映して、月の光を浴びたやや燻んだブロンドがさらさらと天の川のように腰までのびている。
「あと一ヶ月……」
ぽつりと呟くその声は、誰にも届かない。
毎晩のように彼女は夜空を見上げている。
──トントントン
扉を叩く小さな音のすぐ後に、控えめにキィっと扉が開けられた。するりと入ってきた気配に彼女が扉を振り返る。
「お嬢様、まだ起きてらっしゃったんですか?」
「ええ。早く眠ってしまうのはもったいないでしょう?」
困り顔をする執事を見て、彼女は口元に手を当てクスクス笑う。焼けることを知らないその透き通るような白い肌は、月の光で一層輝いて見えた。
「もう20歳になるのです。あまり私を困らせるようなことはやめていただけませんか」
「ふふふ、ごめんなさいね。でももう少しだけ……」
ふと切なく瞳が揺れた。
彼女がしたい事を自由にできる時間は、もう残り少ない。そうはいっても、元々自由な事などあっただろうか。
旧家に生まれ、この大きな屋敷で過ごしてきた時間は、何不自由などなかっただろう。ただ一方で自由さえもなかった。優しい母親は彼女が5つの頃に逝去した。それからは父親と執事、数人の使用人達で暮らしていた。厳しく傲慢な父親はたった1人の娘を屋敷に押し込め、人目に触れさせず外の世界から孤立させた。可愛さ余ってのことではなく、この先の私欲の為だった。
見目麗しく育った彼女は、一ヶ月後に名家へ嫁ぐ。名前も容姿も知らないどこかの次男と、結婚することだけが決められている。
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