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──────── ───── 「あと3日…………」 小さく呟く彼女はまた月を見上げる。 「どうか、助けてください。……私は、愛する人と結婚がしたいのです……」 見上げる月は毎晩、彼女を優しく照らし続ける。今その月は少し欠けている。 「…………お嬢様」 「えっ?やだ、キースいたの?ノックはしてって言ってるじゃない」 「お言葉ですが、何度も致しました。…………そんなに何かに夢中になっていたんですか?」 寝る前の暖かいミルクティーがナイトテーブルに静かに置かれる。バツの悪そうな顔をして、窓辺から甘い香りのする側へやってきた。 「それは、ごめんなさい……」 小さく謝って、カップに口をつける。途端にふっと口元に笑みが零れる。キースはそれを横目で確認する。この瞬間が彼の安らぎでもある。昔からどんなことがあっても、自分の淹れたミルクティーで彼女の笑顔が綻ぶ。変わらないこの反応が嬉しく、安堵する。 自分を表現するのが苦手な彼は、あまり笑ったりすることはない。もちろん意見を言葉にする事も。執事であれば業務上、それは必要なことではないからちょうど良いと思っていた。しかし幼い彼女はそれを必要だと言った。楽しかったら笑って、言いたいことがあれば何でも言って。それはみんなに与えられた自由なんだから!私もあなたとお喋りしたいの!そう言って花のように笑う彼女は、涙が出るほど美しかった。 たった少しの間でもいい。彼女が世の中の全ての嫌なことから解放される時間を作りたい。それしか自分にはできないのだから。 「キース……あと、3日ね。お父様が言ってた人はどんな人なのかしら。良いお家の人だとは言っていたけど、私、何も知らないのよ」 「……」 「優しい人なのかしら。楽しい人なのかしら」 「……」 「私は、どんな事もお父様の言いつけ通りにしてきたわ。でも………結婚する人は」 「お嬢様……」 「……ごめんなさい、キース。あなたを困らせるようなこと言って。レディはわがまま言っちゃダメよね!」 影を落としていた長い睫毛があげられた。そのかすかな微笑みに、キースはいつもの幸福と安堵は得られなかった。まるで諦めにも似た微笑みに、胸の奥が軋んだ。 .
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