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──あと1日
『どうか、助けてください。……私は、愛する人と結婚がしたいのです……』
あの祈りを聞いていたキース。彼女の思いは痛いほど伝わるのに、時は刻一刻と迫っていた。明日夜のうちに、彼女を馬車に乗せ、明朝には相手のお屋敷へ送り届ける手筈となっている。奇しくもその任に就いているのはキースだった。
自分の手で、彼女を差し出すのだ。嫌がっているとわかっているにも関わらず。
いつも冷静でいられる自信があった彼も苛立ちを隠せず、握りしめた拳を壁に叩きつけた。
この部屋で過ごす最後の夜も、彼女は窓辺にいた。大きく輝く月は満ちる寸前だった。小さなノックの後、執事が現れた。
彼は何も言わず、ゆっくりといつもの甘いミルクティーを淹れてナイトテーブルに静かに置いた。しかしいつもならすぐに飛びつく主はまだ彼を一度も見ない。
「この月も、この星達も、私の願いは叶えてくれないのでしょうか。…………だれも、私の願いは叶えてくれないの……?」
寂しげに呟くその背中に流れる、やや燻んだブロンドをずっと執事は見つめていた。
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