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「……お嬢様、お手を」 「はい」 キースの助けを借りて、馬車のキャビンへ乗り込む。陽が落ちた頃、数人の使用人達に見送られて、彼女は20歳まで過ごしてきた屋敷を出発した。もう二度と帰ることのない屋敷。あまり自由ではなかったけれど、大切な人達と暮らしてきた思い出の詰まった場所。 空に浮かぶ月は満ちていた。 「お願いです。どうか、どうか…………」 カタカタと揺れるキャビンから見上げる夜空に願った。     
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