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道中の林に差し掛かった頃、突然馬車が走りを緩めた。そして、林の薄暗い中で馬車が止まった。不審に思った彼女は外へ出ようとした。 ガチャッ── 「!?」 手をかけようとした扉が開き、キースが顔を出した。行き場をなくしていた彼女の手を、彼の手袋をした手が優しく掴んだ。驚いて硬直した彼女をよそに、彼はするりとキャビンへ入ってきて対面へ座った。 「お嬢様……確認したいことがございます」 「な、なに……?」 まっすぐに見つめる真剣な瞳に彼女は息を呑んだ。 「あなたの願いは何ですか?」 その問いに、彼女は黙ってしまった。今まで幾度となく夜空の月に願ってきたこと。叶えて欲しい、その反面叶うことなどないと知っていた願い。それを今口にすべきかどうか逡巡していた。 「あなたは昔私に言いましたよね。言いたいことを言うのは、皆に与えられた自由だと」 「──!」 「ならばあなたも自由です!ここにはあなたを拘束するものなどなにもないのですよ!」 ぎゅっと強く握った手が、手袋ごしでも分かるほどに熱い。今まで聞いたことがないほど強い口調の彼に心を揺さぶられた。     
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