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「アリシア……」
彼の真剣な瞳に差し込んだ月の光が写り込む。それは大層美しいと彼女は思った。名前を呼ばれて、見つめられて……これが自分の望んだことだと気付いた時、彼女は大きく頷いた。
「私の願いを叶えて、、、キース」
一瞬彼の瞳に映る月が揺れた。そして、愛しい彼女の唇へ口付けた。合わせるだけの優しい口付け。名残惜しむようにゆっくりと離れた後、照れた彼女はあの時の花の様な笑顔だった。たまらずもう一度だけちゅっと重ねると彼女を抱きしめたまま外へ出た。
キャビンと馬をつなぐ箇所を外した。
「キース、いいの?」
心配そうに見つめる彼女を尻目に、彼は先に馬へ跨る。そして手を差し伸べる。
「さあ、俺のアリシア。誰にも邪魔されない自由で幸せな場所へ行きましょうか」
普段なら言わない冗談をさらっと言うものだから、思わず目を見張るアリシア。それでも、優雅で凛々しい彼の姿はまるで王子様の様だと、彼女は思った。差し出された手を取ると力強く引っ張り上げられる。彼の前にストンと降ろされ、優しく包み込まれる。
「それでは参りましょうか、お嬢様」
「ふふふ。ええ、キース」
楽しみね、と笑いあう2人。軽やかに林を抜けた2人を見つめるのは、夜空の星々と満月だけだった。
fin.
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