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〈豊穣の恵〉亭は、僕が小さい頃から働いている食堂だ。
カクトス親方は、父さんの昔の収穫者仲間という関係で何かと世話になっている。
家族のいない僕にとっては、ほとんど親代わりのような存在で、厳しくも優しい懐ろの大きな人だ。
僕の母さんは僕がその存在を記憶する前に死んでしまい、僕は男手ひとつで育てられた。
その父さんも六年前のある日、突然帰ってこなくなってしまったが、それについて僕は特に考えたことはあまりない。まわりには結構同じような境遇の人はいたし、みんながその境遇を受け入れて、助け合って生きている事がここでは日常的だった。
三十年ほど前までは収穫者と呼ばれる人々は存在しなかったそうだが、いつしか迷宮内には人を襲う凶暴な植物が出現するようになり、それらから薬師を護衛する目的で組織されたのが始まりだと聞いている。
今は主に、薬師が使う薬草や食料となる野菜を倒して収穫するのが仕事になっていた。
「俺としてはお前にこの〈豊穣の恵〉亭を継いでもらいたかったのだがな。
ノレーゴ種とカラパソン種の玉葱の違いが分かるヤツなんかお前だけだし、その料理の腕と味覚の鋭さがあれば、この店をもっと大きくだって出来たのに……だが、もうそれは言うまい」
親方は天井を見つつ溜め息を吐きながら腕を組んだ。
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