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「すみません親方。料理は大好きですが、父さんがよく言ってた"自分にしか出来ない事"を探しに行きたいんです。僕には迷宮の中にその答えがある気がしてならない」
親方としては迷宮に挑む冒険心も、それを止めたい親心も、両方理解できるだけに苦しいところなのだと思う。
一度迷宮に入ってしまえば、軽く年単位で帰ってこれない。
収穫者として、大薬師神宮のために働くのは非常に名誉なことではあったが、その寿命は短く、ほとんどが父さんのような迷宮内での行方不明者だった。
親方のように大怪我を負っても、生きて帰って来る収穫者は本当に稀な事だと何度も聞かされていた。
「大鳥居を出るまでが収穫作戦、ですよね? 」
親方は満足そうに首肯し口端を緩める。
「無事に帰って来い。きっとだぞ」
力強く叩かれた肩はじんと熱くなって心にまで届き、再会の誓いが深く刻まれた。
僕は親方の目尻にあった光るものを見ないように頭を下げ、〈豊穣の恵〉亭を後にした。
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