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格子窓の外からは毛長牛のロバロが地面を蹴りつけ、朝食の催促をする音が聞こえていた。
ものごころ付いてから友達と呼べるのは彼だけ。大きくて静かな所が好きだ。あれこれ注文をつける事もなく黙ってついて来るのがかわいい。
「ロバロ、少し待つ」
萌える季節も近いというのに朝の空気は褐色の肌を刺す。
五枚並ぶ小さな足の爪、柔い踵、細いふくらはぎ、小ちゃな尻。包帯越しでも異形と分かる右腕、細い腰、未熟な胸、薄い肩。わずかに見える鎖骨のくぼみ、細い顎、可憐なうなじ、右頬に広がる岩の様な醜い皮膚。
そして凶々しい角。
ワタシは他に侵食がないか身体中を丹念に調べた。
もうすぐ陽光の時刻
一枚しかない打掛に袖を通し緋色の短袴に五ツ薬師紋の羽織りをはおる。壁に掛けられた丸鏡を確認し、少し離れたいつもの場所に立った。
目に痛い光が格子の間をすり抜け、私の顔にくっきりとした陰影を創り出す。すすけた丸鏡の中の美少女は愛くるしい笑みを私に投げかけて来た。
「ん。今日も生きてる 」
からり、と戸を開けて朝の軽い空気の中に踏み出し伸びをする。
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