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でももしかしたら、知り合いとか仲間が後で探しに来るかも知れない。
埋葬する前に遺品となる何かが無いか探ってみる事にした。
マスクを取ると、やはり男
中年の、特に特徴の無い顔立
しかしその肌は、この辺りでは滅多にいない褐色で、瞳は黄金色
つまり、私と同じ……
……
……
…………ーーーー見なかった事にしよう。
何か厄介ごとに巻き込まれそうな気がするし、面倒なのは御免だ
私は静かにここで暮らしたいだけだし
冒険も素敵な出会いも特に望んでなんかいない。
後ろ向きな私は私じゃない誰かに言い訳をして、他に何か無いか探してみた。
懐には大事そうに抱えた書が一冊。
〈大薬師神宮 薬師辞典 大薬師 黒駒ウーヴァ著〉
その書の表紙には下手くそな文字でそう書かれていた。
何年も行方不明のまま帰ってこないと思ったら、薬師総本山の大薬師神宮でエラくなってたのかアイツ。
私の性格からして、当然これぐらいで母親に会おうなんて思うわけが無かったが、この薬師辞典の最後の章には〈植物の毒と呪いについて〉と記された項目があった。
そこにあった呪いの症状は間違いなく私のものと同じだったが、基本的な手技と最低限の材料だけしか載っていない
しかし最後に〈完全寛解〉とあった。
大薬師ウーヴァは、アイツは、間違いなくこの呪いを解いた。
私はこの書を読んだところでどうもするつもりは無かった。
しかし最後の文字を見た時、薬師としての意地が頭をもたげ、ダメ人間の私を押し退け前へと進み出て来た。
「お前もこの呪いを解いてみせろ。アタシの娘なら出来て当然だし」
これは私への挑戦、そう受け取った。
意地とダメ人間が腹を割って話し合った結果、意地の方がダメ人間をどうにか説き伏せ、薬師ウーヴァの挑戦を受ける為に重々し過ぎる腰を上げたのはそれから一カ月後の事だった。
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