第一章

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お世辞にも決して立派とは言えない店構えだが、店主のカクトス親方の豪快な人柄と豊かな料理の味で、客足は絶えないほど繁盛していた。 「ハイドラ、今日はもうあがっていいぞ」  厨房の隅で馬鈴薯の皮を剥きながら呆けていた僕に、親方が声をかけた。 「えっ?でもまだこんなにありますよ。明日の開店に間に合わないんじゃ」  僕は背後に積んであった野菜袋の山を見てぼやき半分に応える。 「大鳥居の頭が雲で見えんから、明日は午後から雪になる。客は少ないさ。 それにお前はさっきからニヤニヤしっぱなしで気持ち悪いぞ。明日から僕はハーヴェストに……なんて甘い妄想していたのだろうがな」  親方はひげだらけの顔でガハハと豪快に笑う。 「そ、そんなにニヤついてましたか 」 僕は顔が赤くなる。 ここ何日かは同じネタでからかわれていたので、気を引き締めたつもりだったが、そんな事は親方には全てお見通しだった。 「いつも言ってるが迷宮の中では気を緩めるなよ。少しの油断が死につながる。 ここにある野菜どもとはまるで違う」 親方は袋詰めされた野菜を肘下の義手で指した。
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