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俺はひとり文明が崩壊した古都に立っていた。
目の前には、どぎつい色をした、いかにも凶悪そうなドラゴンが立ちはだかっている。
俺はライフルの標準をヤツに定めた。
失敗は許されない。
俺に残された最後の一発だった。
ゴクリと唾を飲む音が自分にも聞こえた。
その時。
「……なあ、鹿島」
そんな舞台には不釣り合いな声が横から聞こえた。
「なんだよ」
俺はVRゴーグルを着けたまま答えた。
「これ、見てよ!鹿島、すげぇよ!」
服を掴まれて、ぐいぐい引っ張られた。
そのせいで、ゴーグル越しに見えるヴァーチャルリアリティー空間がガクガク揺れた。
手元が狂い、貴重な最後の一撃がドラゴンから大きく外れた建物に命中し、粉々になった。
「お、おい、やめろって!いいところなんだから、少し待てよ」
ラスボスが、もう少しで倒せそうなのだ。ここでやめる訳にはいかない。
「………わかったよ」
少し不満そうな声が隣から聞こえた。
俺は剣を引き抜くと、ラスボスのドラゴンに向かって駆け出した。ドラゴンの弱点は首にかかっている、大きな鏡だ。それを壊せば、ミッションコンプリートだ。
「とどめだ!」
俺は鏡を目掛けて飛んだ。その剣先が鏡に刺さろうとする寸前。
突然、ドラゴンの口からから巨大な火の玉が吐き出された。
それをまともに正面から食らった俺は、HPが一気に零になった。
黒焦げになって動かなくなった俺のアバターが画面上に映し出され、ゲームオーバーの文字と共に、虚しいメロディが流れる。
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