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白い息が僕と刑事の口から吐き出され、僅かに曇った真冬の空へと溶けていく。きらきらと遊ぶ光のイルミネーションの中に、優しい何かが舞い落ちてくる。それは刑事の口元にあたり、刑事の体温で溶ける。
「あっ…。」
刑事の上げた声と、視界に入ってきた事でようやく気付く。
「…雪だ。」
僕が独り言のように呟くと、刑事も再び口を開く。
「……そうだな。」
今僕らは、混み合ったカフェの外にある小さなバルコニーで、 "ジャック" に関する捜査資料を纏めていた。
男二人で何を……。と自分でも流石に虚しく思ったが、これ以上の犠牲者を増やさないためにも、どうせ独り身だし、と心に言い訳を与え仕事に勤しんでいた訳だ。
ふと、刑事がパソコンから目を離し口を開く。
「この寒さでは、誰も来ないな。仕事がやりやすくて助かる」
「それはそうだけど、僕としてはこの寒さは辛いよ」
「冷え性なのか?」
くいっ、と刑事が眉をひそめる。
首元のマフラーを巻き直しながら、それに答える。
「いや、寒がりなだけだよ。冷え性なんて、そんな女々しいもんじゃ無いからね」
「そうか、それは済まない」
「いえいえ」
それきり、またパソコンに目を移して何も云わなくなる。
ここ2、3日で刑事について分かった事があった。初めから違和感はあったのだ。何故警部たちと同等の力がありながらも、刑事留まりなのか。
最初は上司からの嫌がらせか何かで昇格をもみ消されているのかと思ったが、原因はコイツ自身にあった。正義を貫こうとするが故の、生真面目で頑固で融通の効かない面倒この上ない性格のせいで、何度かあった昇格の話も無しにされていたのだ。
馬鹿馬鹿しい。久々に大笑いしてしまった。
刑事自身気にはしていないらしいが、少しは改善したらどうなのだろう。そのままでは、彼女が出来ないまま、また一人でクリスマスを過ごす事になるだろう。
まぁ、その時は、もう一度僕が居てあげることにしよう。
どうしようも無い、初めての相棒のために。
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