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12月24日、冬。世間一般では、ホワイトクリスマスと騒がれる忙しい日だ。大通りにはまばゆいほどのイルミネーションが輝き、カップルである者もそうでない者も、皆何処か満ち足りた表情をしている。
しかし、今の僕にはそんな暇は無い。少しも。
僕は探偵。それが仕事だ。今僕は警察に協力を頼まれて、ある犯罪者の行方を追っている所だ。これでも割と名の通った探偵なんだ。
その犯罪者の呼び名は、「ジャック・ザ・リッパー」。初めは随分と誇張した呼び名だと鼻で笑ったが、周りの警部が放つ緊張感と、実際に遭遇したジャックの猟奇的とも云える殺人の仕方に、思わず冷や汗が流れた。
さらに驚いた事に、夜闇に身を隠す猟奇的殺人者は、なんと女性だったのだ。
最初は高い身長のせいで気が付かなかったが、長い銀髪と此方を真っ直ぐに見返す切れ長のエメラルドグリーンの瞳、そして夜目にもわかる程白い肌。男なのかも知れないが、恐らく女性なのだろうと思った。
ナイフと云うには僅かに長い刃渡りの、短刀のような血濡れの獲物を手に、彼女は高い跳躍力で僕らを飛び越え深い闇の中に姿を消した。
その姿を見ていた僕の相棒である刑事は、小さく呟いた。
まるで、「堕天使のようだ」と。
確かにそうかも知れない。風に流れる銀髪は、月明かりに照らされて透明に映り、ふわりと風を孕んだマントが僕らを翻弄するように揺れていった。
僕の心を射抜くには、それで十分だった。
嗚呼、拙い。僕は彼女を奪いたい。
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