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「突然ですけど、部屋行っていいですか?」ほど困るものはない
男子の部屋の半分は、およそ人に見せられないもので構成されている。
宅飲みの翌日、家主の柊は「とりあえず山」と呼んでいる部屋の一角が崩れる音で目を覚ました。
「ああーっと…」
不吉な音にも指一本動かさない。ヨガでもしているのかと聞きたくなるポーズのまま、大学生は呻く。
(とうとう崩れたか。仕方ないか、暖かくなったし)
他人事極まりない感想をつぶやき、柊はベッドの脇まで雪崩れてきたうまい棒を力なく見つめた。これは昨夜迷惑な友人たちが「五千円分買ってみたぞ」とくれた代物だ。
ついでに言うと今、うまい棒山崩壊の衝撃で五円チョコ山が二次崩壊を起こした。数は言わぬが花だろう。
「押しかけるたびに変なものばっか置いてくから…」
人のせいにしてはいけない。ここは誰でもない柊の部屋だ。管理責任は家主にある。
引っ越し当初、この部屋はベッドにローテーブル、座椅子が一つに本箱一つの簡素な構成をしていた。家具の色も揃え、カーテンにもこだわった素朴なワンルームは、今や見る影もない。
国破れて山河ありというが、男子堕ちて汚部屋ありという類語も作ったほうが良いだろう。この部屋が典型例だ。
大量の酒瓶、目当てのグラビアだけが抜かれた雑誌、教授が「今年も提出されたか…」と嘆く十年もののコピーレポート。作るのを断念した姫路城の模型は座椅子の横に置きっぱなしだ。黒田官兵衛が見たら泣くだろう。
柊は気を使いながら参考書の隙間に足を置く。爪先に何かが当たった。感触からしてどうやら小学生の頃に貰った十字架のネックレスのようだ。
(うわぁ…)
少年時代の黒歴史が蘇り、一気に目が覚める。
柊はこみ上げる衝動に身震いした。
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