「突然ですけど、部屋行っていいですか?」ほど困るものはない

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 とはいえ、こんな百均で売られていた文房具で適当に作っているのが母親に見つかれば、朝まで説教コース待ったなしだ。目立つことはするなとは言ったが、信仰をないがしろにしていいとは言っていないといった旨の話をずっとずっと繰り返すだろう。  妹あたりは「せめてマスキングテープで作ればよかったのにね」とか言いそうだった。 「絵葉書とかなかったっけかな?」  このまま好きでもないアニメ絵を飾る選択肢は絶対にない。だが、セロハンクロスも「これなあに?」と尋ねられた時が辛い。  柊は丸めたポスターを持ったまま思案する。  掃除のため半分開けた窓からは、春真っ盛りだというのに冷たい風が吹き込んでいた。 「うー…」  さてどうしたものか、と思案していた柊はあることに気がついた。 (?…静かだな)  さっきまでバンバンと壁を叩いていた隣人が沈黙を保っている。  出かけたのだろうかと柊の頭のどこかが囁いたが、すぐに否定した。崖を崩して建てたこの安アパートは壁が狭い。隣の家のドアの開け閉めですら、振動で伝わってくる。  住み始めて1年を超えると、段々壁の向こう側で何をした音なのかがわかるようになってくる。立ち上がった時によろけた音、スマホを落とした音。不思議なBGMが伴っている時はエキササイズ用の動画を見ている時だし、重い引き戸の音があるならばそれは風呂だ。  そんなところで野郎だらけの宴会をするなと言われたら仕舞いなのだが。  だからこそ、柊は固まった。  ゴキブリとの戦いで、思考から外れていたが確かに見ていた。  先ほどの振動、揺れた時計のあたりを震源地としていたのだ。男性平均より少し小さい柊の頭よりも上、ほとんど天井をいくような位置だった。 「…」  いよいよ吐きそうなくらいに胃がむかついてくる。  酒のせいじゃないのだと、柊はやっと理解した。
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