「突然ですけど、部屋行っていいですか?」ほど困るものはない

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 押せば背骨が折れてしまいそうな姿勢だ。下着に薄いネグリジェ姿だが、胸よりも浮き出たあばら骨が目立つ。  化け物は軋んだ音を立てるほど首を捻じ曲げ、赤い口を晒している。肌は土で出来ているかのように水気がなく、柊を捉える目は濁り、小刻みに震えていた。  柊はわずかに首を動かして変わり果てた隣人の姿を見つめる。うめき声をともがらに、女は狭い天井を何度も往復していた。 「セロハンテープでも効果はあるんだな」  家主は間の抜けた感想を口にする。ゆったりとした態度だ。正直、ゴキブリを相手にしていた時の方が慌てている。  髪を振り乱し、悪魔に取り憑かれた女は柊に威嚇の声を上げる。 「っ!」  その唾液が掃除したての机を穿った瞬間、おとなしそうな顔をした大学生は牙を晒して吠えた。 「ふざけんじゃねぇぞファッキンデビル!!人がどれだけ必死で掃除したと思ってんだッッ!!?」  母親に向けたそれをはるかに超える。全く躾のなっていない口調。豹変、という言葉がしっくりくる変わりぶりだった。 「熨斗つけて地獄の一丁目に送り返してやらぁ!!」  クローゼットに押し込む、最後の一回分に回してあったレミルトン・アームズM1100を手に取る。勇ましい音を立てて銃口はモデル願望のあった隣人を狙うが、弾が飛び出す気配はない。  柊は歯を軋ませて呻いた。 「敷金…礼金っ!!」
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