「突然ですけど、部屋行っていいですか?」ほど困るものはない

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「橙先輩!」  柊はアパートの入り口で四苦八苦している橙に駆け寄る。 「大丈夫ですか?やっぱりウチのアパート段差が大きい痛たたたた!!」  皆まで言えない。男子大学生は車椅子の先輩に鼻を摘まれた。顔を洗い損ねている後輩の鼻をつまんでいる橙は、少し頬を膨らませた。 「怒ると言ったはずです」  頑なな目は、出来ると思ったことは自分でやりきらないと満足しないと告げている。 「…」  対する柊は上の空だ。橙の不機嫌な顔ですら不覚にもときめいてしまっている。  橙は後輩の名をゆっくり呼んだ。堂々とした様は、車椅子ではなく玉座の座る女王のようにも見える。 「えーっと、待ってたわけじゃないです、出迎えに外出ただけです」 「重箱の隅をつつかなくてよろしい」  橙はプイと横を向く。強い日差しの中、一人でここまで来たのだろう。丸い頬はうっすらと日焼けていた。
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