「突然ですけど、部屋行っていいですか?」ほど困るものはない

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 橙の澄んだ瞳が柊を捉える。早鐘のように脈打つ胸を押さえ、柊はしどろもどろに返事した。 「もし、よければ…。何もない部屋なんですけど…」 「それは面白味がないですね」  バッサリといった。小気味良いほどだった。 「部屋はその人の頭の拡張ですから。私は、ありのままの柊君の部屋を見てみたかった」 「…。…」  見せられるわけがない。絶対に。柊はしょげた顔で「すみません」と告げた。 「柊君。そろそろ落ちそうなんですけど」 「すみません…」  古いアパートでは橙の車椅子は通らない。結局、柊は橙を持ち上げて部屋の中に招くことになった。  先ほどの橙の一言が効いているのか、柊は謝り通しだ。悪魔相手に罵声を履いていたのが嘘のようである。 「…本当に何もないんですね」  クローゼットにまだ目を向けていない橙は、冷めた感想を漏らす。柊の首に腕を回したまま、拭きたての床に視線を走らせる。その上で、柊は緊張で顔を真っ赤にしていた。
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