「突然ですけど、部屋行っていいですか?」ほど困るものはない

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 胃には昨日の酒が残っていて、何か食べる気にはならない。寒気すらする。目当ては流しのそばに置きっぱなしにしたスマホだった。 「うーん」  メッセージを確認する。最後に覗いてから半日と立っていないのに、未読は二桁を超えていた。半分以上は大学のクラスアカウントだ。柊は他愛もない会話を流し気味に読む。  すると突然、新着メッセージが入った。可愛らしいオレンジのアイコンだ。  心臓を直に掴まれた心地がした。柊はその正体を叫んだ。 「橙(だいだい)先輩!?」  奇天烈な名前だが本名である。柊と同じ鳥人間サークルに所属する、お散歩とダリの絵をこよなく愛する3年生だ。この宅飲みでよく話題に上がる人物。つまり、柊の片思い相手だ。 「なんでいきなり!?いや、先輩ならいつものことだけど…」  柊の憧れの先輩は気まぐれで人の話を聞かない。脈絡のないメッセージにいちいち驚いてはいけない。 「〝公園を歩いていたら、柊君に丁度よさそうなよもぎを見つけたので届けにお邪魔します。11時には着きます〟」  柊は慌てて壁掛け時計を見た。隣には昨日勝手に貼られたアニメポスターが大きな目をこちらに向けている。 「俺に丁度いいよもぎってなんだ!!?じゃなくて、ーーーあと30分でッ!?」  男子大学生は絶叫した。
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