「突然ですけど、部屋行っていいですか?」ほど困るものはない

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「もしもし!?」 「あ、柊?お母さんだけど」 「ごめん後で。正直それどころじゃない!!」  スマホを頬と肩でホールドし、柊は敵影を探している。鏡にちらと映った己の髪には右半分に変な寝癖が付いていた。 「何言ってるのあんた。今日は日曜、安息日よ?神様がこの世界を作った時だって、7日目には休んだわ」 「そういう話は今いいから!!俺、今人生初の戦いを強いられてるから!!」  電話の向こうにいるのんきな母親には通用しない。「何言ってるの」と口癖を挟む。 「いつものことでしょう?人生は戦いの連続ってね」 「こいつら飛ぶんだよ!!無駄に早いし!うわ、天井に張り付きやがった、お願いやめて!!ちょっと待って本当無理神様!!」 「そうそうお母さん、来月東京行くから。あんたの部屋に泊まるわ」  ぺしん、ぺしんという間抜けな音を無視し、柊の母親は無情にも告げる。柊はうめき声しか返せない。  いつかの飲み会で半分開けられたペットボトルの陰に隠れた害虫をどういぶり出せば良いのかわからない。道民の悲しい定めだった。  朝から大騒ぎしているためか、滅多に怒らない隣人が壁を叩く始末だ。「もうやだ…」と二十歳の男は泣き言を漏らした。 「しっかりしなさい。いざとなったら撃てばいいのよ」 「こんなところで使えるわけないだろ!グッパイ敷金礼金だよ!」 「あらそお?お母さん、倉に出るネズミにはよくHK45Cを使うわよ?やっぱり全体800グラム切ると軽く感じるわぁ」 「田舎だからってやっていいことと悪いことがあるだろババア!!」
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