「突然ですけど、部屋行っていいですか?」ほど困るものはない

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 ドンっと部屋全体が揺れた。壁にかけている時計が一瞬、浮くほどだ。それほどの衝撃が壁の向こうから伝わってくる。日頃の良き隣人は、騒音にかなりお怒りなようだった。  柊は慌てて声を潜める。 「…もしもし?」 「柊、悪い口」 「ごめん」  一人暮らしに慣れていない息子の苦労を察したのか、電話の向こうの声は少し優しくなる。 「自信を持ちなさい。あんたにはインマヌエル様と一緒に北の大地を冒険した開拓民の血が流れてるんだから」  またそれだ。柊は見飽きたCMにケチをつけるような口調で「それからぐうたらな親父の血も」と答える。  部屋は薄暗い。カーテンを開けたかったが、敵から目を離すわけにもいかない。這いつくばりながら電話を続けた。 「あのさ母さん、家くるって6畳しかないのに寝るところなんてないよ」 「床でいいわよ。お母さん慣れてるわ。ついでに掃除もしてあげる。どうせあんたのことだから、とりあえずとりあえずって何でもかんでも放ったらかしにしてるんでしょう?」  母には何でもお見通しだ。柊は情けない声で返事をした。 「今やってるってば!」
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