「突然ですけど、部屋行っていいですか?」ほど困るものはない

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 時計を見る。先輩到着までいよいよ15分を切っている。遊んでいる暇はない。幸い、おしゃべりな母親の話題は大方済んだようで、「最後に」という一方的な通告が始まった。 「8月にはちゃんと帰ってくるのよ?夕張にいる燭台屋のおじいちゃん、あんたの顔見るの楽しみにしてるんだから。それから煙草は絶対止めること。あんたにキアヌ・リーブスの真似事は似合わないわ」  「夏休みは合宿で…」という柊の言い訳は綺麗に無視された。耳には虚しい音しか聞こえない。 「帰ると家業を継げ継げうるさいから嫌なんだ」  柊はぼそぼそとつぶやいて、スマホを置く。人類の敵は目の前だ。長い触角をゆらゆらさせているだけだというのに、どうしてこんなに心臓がが騒めくのか。 「あーもー駄目。怖い。普段見てるものの五倍怖い…いつもの連中ならダースで相手できる…」  自然と弱音が出てくる。母親のアドバイス通り、持つものを持った方が良いのかもしれなかった。 「いち、にのさんで行くぞ…。いち、にーーー…って、先に飛ぶなよ!!」  決死隊のような雄叫びをあげ、柊はなんとか黒光りの恐怖をスリッパの下敷きにすることに成功した。どっと疲れが襲ってきた。  が、休む暇はない。
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