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「さぁ、魔王様への不敬を正せ。さもなくば…」
剣がガタガタと震え、首筋が非常にこそばゆい。揃いもそろって剣でくすぐりを加えてくるとは、やりよるわコイツら。
「殺す!」
「だーっはっはっはっは!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!あー、おかしっ!やめてくすぐったいから!」
我慢の限界に達し、ついに前のめりに笑い転げてしまった結果、一瞬だけ槍や剣のレンジから自分の首を外すことに成功した。幸い前方にあるのはコスプレ親父の座る椅子があるだけで遮蔽物も罠もない。ひとまず殺すと言われた以上、例え大根役者だろうが殺人未遂に変わりはない。せめて一矢報いてみよう、ダメ元だけど。
「うぉらっ!」
前のめりになった体勢のまま、両手を地面につきやや後方に視線を据えながらしゃがんだままだった足を解放し、レンジ外にある槍を真下から上に蹴飛ばす。不意をつかれた槍使い役の女はその槍を手放してしまったらしく、また俺の蹴りもなかなかにしたたかだったようで、3m以上上の天井に突き刺さってしまった。
その行方を傍観する暇なく、みよう見真似でなんとなく覚えたブレイクダンスの要領で首と手を軸にして足を回転させて剣、槍、槍、槍、レイピアを弾き飛ばす。加速した足は剣を真っ二つに折ったり槍の矛先をクラッシュアイスのように砕き…え?
「あららぁ、力入りすぎた?」
…まぁとにかく、拘束から逃れるだけではなく武装の無力化をも成し遂げてしまった。似非ブレイクダンスだっただけに見苦しいものではあったものの、命に関わる?状況だったので結果は良。脚力に運勢があるとすれば、今日は花丸大吉だろう。
「ひと蹴りで近衛を無力化だと………。武装も無力化し、おまけに殺してしまうとは…」
「は?殺し?そんなわけね……」
さきまでいた場所の背中側に目をやると、首が吹き飛んだ遺体と胴から真っ二つに引き裂かれた遺体らしきものが散乱し、鉄分がはじけた匂いが鼻をつく。
すげぇなあの近衛役の人たち。一瞬ですげ変わるとは。
しかし、リアルな遺体だなぁ。と、ちょっと興味本位で遺体の一部に近寄る。
…マジか。そう思った瞬間に催した吐き気。
まだ暖かさを感じる遺体の体の中で弱々しく鼓動する心臓を見てしまったからだ。
「ぬし…人間……だよな?」
「わかんね…おぇっ」
嗚咽する俺の背中を、魔王コスプレ親父がさすってくれた。サーセン
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