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ひとしきり胃袋の中身を吐き出し、落ち着いたあたりで魔王コスプレ親父が俺を客間らしき場所に案内してくれた。肩まで貸してもらって、ありがたい。
客間に着き、椅子に座るよう指示されたので従う。
俺が座るのを確認すると魔王コスプレ親父も倣い、対面にある椅子に座る。
「えーと、まず…。さっき君が殺した奴らなんだが」
「…マジで俺が……?」
魔王コスプレ親父がゆっくりと頷く。
「心配はいらない。彼らはヴァンパイアの一族でね。不老不死の能力があるから、じきに蘇るよ。
そして私は魔族を束ねし王のハデスだ。いきなり君を呼び出してしまい、申し訳ない。」
コスプレ…いや、ハデスと名乗る男は立ち上がり恭しく礼をする。綺麗な60°のその礼に含まれた謝罪の意図を俺はその瞬間はわからなかったが、ハデスの言葉を反芻して理解した。
「呼び出した?」
「あぁ。君、異世界転生という言葉は知っているかい?」
俺は少し躊躇いながら、頷く。
一般教養クラスの内容でよければ、その言葉の意味は理解出来る。でも、俺?
「よく私は地球の、ニホンという国のモバイル端末とやらでその異世界転生のタグのついたノベルを読むんだ。
実際、私のいるこの世界も君や君の知り合いからすれば「異なる次元の世界」で異世界なんだ。
そして異世界転生は実際に存在する。実際、数百年ほど前に1人、ニホンの武人がこちらに転生してね。
彼はよく言っていたよ。
「主君を殺した罪を着せられた私に、出来るのだろうか。」
と。」
あっ、聞いたことあるなその人。心当たりありすぎで笑いそうになったのを堪え、ハデスの話を聞く。
「で、それから数百年経ち、君が選ばれた。
ちなみに言っておくが次元のつなぎ目がどうとか、神を倒せとか、そういう重大な宿命はない。
神なんて、存在しないからね」
「でもよ、そうなると俺の世界では八百万神(やおよろずかみ)やらゼウスやらなんやら、神の話は相当あるぞ?」
「いない、存在しない。
何故なら彼らは元はひとつの生き物…まぁだいたいは人間であり、彼らはある行いが信仰という形で持て囃され「神格化」した、早い話モニュメントだからね。そのモニュメントを題材にした同人誌がいわゆる神話だよ。わかったかな?」
「話をさらっと飲み込めた事実に感動した」
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