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「新感覚過ぎてなんとも言えない。勇者から魔王を救う、人間から見ればダークサイドの話だろ?」
「だけどさ、俺、ただの管理者よ?アパートの管理人さんがいなくなったらどうなる?無法地帯になるだろ?
負の感情からは負の感情しか生まれない。負の連鎖を断ち切る為、異世界から呼び出された勇者をあわよくば無力化して欲しい。殺したって構わない。
だけど殺すならば相当訓練しないといけない。あと、俺の負担が増えてヤバくなることを忘れないで。
もし引き受けてくれるなら、ハデス式トレーニングを「無限の扉」と呼ばれる場所で受けてきて欲しい。
まぁ、元の世界に戻る方法はないんだけどさ。」
「もし、もし断られたらどうするの?」
「殺すさ、カズマ。君をね。」
刹那、背筋に氷か何かを入れられたような悪寒に襲われる。ビリビリと、肌の表面を静電気のようなものがいたずらに走り回っているかのように鳥肌が止まらない。
さっきまで仲良く談笑していた相手から突如向けられたその殺意に、俺はようやく異世界に来てしまったんだと悟ると同時に死を覚悟した。
「え、ちょっと待ってカズマ。…かなり強めに殺気当てたのに顔色変わるだけ?」
「はぁ、はぁ、はぁ…。無理、倒れそうだよ。ハデスめっちゃ怖い。」
殺気は解かれ、体が楽になるが同時にだらしなくソファに体を投げ打ってしまった。
冷や汗が未だ止まらないし、脈拍もかなり早い。全力疾走とかそんなチャチなもんじゃない。
これが魔王ハデスの力か…。
「この殺気を出すつもりはなかったんだ。だって、この殺気のせいで…あぁぁぁぁ、収穫間近のカリフラワーがぁぁぁぁぁぁ!」
つまようじくらいの細さになり、指先で無に還ったカリフラワーを見つめて涙を流すハデスを見ているが、こちらもこちらで頭の整理が追いつかない。
「ぅぅぅ…。」
泣きじゃくり、ぐずっているカリフラワー魔王を放置し、限界まで来ていた緊張がほぐれたのか俺は意識を手放した。
「カズマ、いい返事を期待してる。だから…、負の連鎖を断ち切ってくれ。」
ぐずりながら本音として漏らしたその言葉は誰にも聞かれることなく、カリフラワーと一緒に消えていった。
「とりあえず、ベッドにうつしてあげないとね。おーい」
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