5 ダメだ、こりゃテンプレ

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「お前が求めるものは、なんだ?」 さも、この先の答えを見据えたかのように腕組みをしつつ俺は勇者に問う。 勇者はこの言葉をどう間違えたか、帯刀している聖剣らしき剣を抜き中段に構える。 切っ先をこちらに向け、左半身を前に出しつつ躙り足で徐々にこちらとの間合いを詰める。 「貴様、地球からの転生者だな?」 「っ?!な、なっ!?」 あの構え方、剣道の構えに似ている。本来の型でないにしろ似過ぎている。 見よう見まね、中途半端。無論俺に武術の心得などない。だが久しぶりに感じる地球らしい何か。 聞かずにはいられなかった。 「無言は肯定とみなす。 同時に、俺に切っ先を向けたことへの後悔もしてもらわなければな。」 「俺は、俺はこの世界の平和をもたらす! 人や生き物が平和に暮らせる世界を作りたい! だがその為にはお前を、それからそこのドラゴンを殺さなければならない。」 紙切れ一枚以下の、非常に薄っぺらい正義感。おまけに矛盾している。人と生き物が平和に暮らせる世界と言っておきながら俺という「人」、横であくびしているドラゴンという「生き物」の生を脅かす発言をした。 人間は結局、人間だけが可愛いと今断言したようなものだ。 心底呆れた。もう少しまともな発言をするものかと思っていたが 「期待外れだな、勇者。興醒めだ」 「何故だ!貴様のような人の形をした悪魔は消さなきゃならないんだ! でなければ平和など…」 「ほぉ。なら、ここにいる「ただ生まれつき黒いだけのドラゴン」を生き物として認識出来ないお前に、世界を平和にするという大義名分を掲げる資格はあるのか? ただ生まれつき黒いだけで迫害され、何もしていないのに殺された。 同じ生き物だというのに、同じ命を持つ生き物なのに。 貴様は勇者の前に人である資格すらない。」 かつて某国が起こした、肌の色で迫害をしていたように。 黒=邪なものという考えに至ってしまった結果が生み出した悲劇を。そしてその悲劇は今なお続いていることを。 「デタラメを言うな!幾多の殺戮の限りをつくした災厄の象徴がそのドラゴンなんだ!」 「論点をすり替えるな。逃げる気か?己の無力無知無駄無価値無意味で偏った発言を、すり替えて揉み消すのか? だから人間は嫌いなんだよ。 だから俺は人間を辞めたんだよ。」 「な、何?」 ごめん俺も論点すり替えました。
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