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ドラゴンと別れ、勇者を野ざらしにした後俺とミカサさんとガレさんは転移で寮に戻った。
それから寮長には結局終日会えず、ミカサさんも自分の集落の酋長としての仕事もあり帰宅。
ガレさんと2人きりとなった。深い意味はないが、改めて考えるとやっぱりドキドキしてしまう。恋とか愛とかそういう類のものでないことは自明の理ではあるのだが、綺麗な女性と2人きりというのはたとえ劣情を感じなくとも男としてのサガというものが無闇矢鱈にイグニッションキーを回しては戻すを繰り返すのだ。
「そういや荷ほどきしてないな」
「ほどく荷物はどちらに」
「ないっすね」
「買いに行きましょう」
「買う金がない」
「稼ぎに行きましょう」
ほぼ棒読みで、ほぼ何もない部屋のソファに2人並んで座り虚空を眺めながらの会話。
どうでもよい話だが、タクシーなどの無線は棒読みレベルで抑揚を殺して喋らないと通じないらしい。ゆえにボソボソ喋っているように聞こえる、との事。
この世界にタクシーあるいは車が普及するのはいつの日やら…と適当なことを考えていると、ふとガレさんが俺の手をギュッと握る。
俺の手よりも一回りふた回りは細い彼女の手は温もりがあるはずなのに程よく冷たい。
その冷たさを以ってして、俺の心に小さな氷の矢を穿つ。そこから徐々に広がる謎の高揚感。
ドキドキ…それ以上の胸の高鳴りを表す言葉があるなら是非ともその言葉を借りたいが、視界に入ったガレさんの表情は、出会った当初の寒々しいものとは違い、やや赤らみを孕んでいる。
「人間界にはギルドと呼ばれるものが存在します。
しかし我々は人間側の益になるようなことをしに来たわけではありません。
ですが、一介の学生が稼ぐ手段がギルドしかない。ある意味で学生の選択肢が軍事利用かギルド員として社会の歯車に居座り続けるだけ。
そうなるとですね、カズマさん。
我々は「裏の仕事」で稼ぐしか方法がありません。」
赤らみのある表情で、愛のひとつでも語るのかと思いきや、彼女のイグニッションキーは別な方へと回されたらしく、懇切丁寧な説明を携えながら今後のセイズ家の家計についての真剣な話だった。
「裏の仕事か…。」
「一応言っておきます。人間の慰み者にはなりません。」
「しない、させない、やらせない。俺のモンだから」
「よくおわかりで」
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