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これまでにない程、巨大なボアインパクトを目の当たりにしたハウルはつい先ほど吐いた言葉を反芻しつつ後悔した。
破壊者が破壊者と呼ばれている由縁。
暴力的、かつ正確に放たれる魔法。その威力は一級規制魔法ですら傷ひとつつかない魔法測定用ゴーレムを粉微塵にしてしまう程。それも「ボアインパクト」という、四級規制魔法で。
前代未聞、大胆不敵と呼ぶにふさわしいその火力はハウルの肝を冷やしつつ、さらに着々と迫る死の恐怖を与える。
目立ちたかった。モテたかった。
自分こそが勇者なんだと周囲に知らしめたかった。しかしその夢が潰えようとしている。破壊困難と呼ばれている魔法測定用ゴーレムですら簡単に破壊する破壊者の魔法。対抗する術はない。仮に勇者としての「何か」が覚醒したところでどうしようもない距離だ。
ハウルはそっと、目を閉じた。
ボアインパクトが命中し、何かが弾け飛び散乱し、湿ったタオルを投げつけたような音が耳に入った頃、目の前にいたハウルと思われる赤の塊が視界に入る。
そう、これこそが本来あるべき決闘のあり方と末路。明日は我が身と、やや肝を冷やすが火照った体を冷ますにはちょうど良いとため息を垂れ流す。
しかし決闘とは言え、ここにはおそらく防死結界が張られているはずだ。そのうちぬるぬるじゅるじゅると元に戻るだろうと考えていた矢先、鳴りを潜めていたアナウンスが入る。
「決闘において、命を賭ける宣言があった為、防死結界は外されております。
これが本来の決闘であり、その末路であります。
実際の戦いにおいて、防死結界など存在しません。明日、破壊者のように立っていられるか、はたまたハウル選手のような様になっているか、それは生徒諸君の今後の働きと努力にあります。
それを自らも命を賭け戦い、勝利した破壊者ことカズマ選手に今一度大きな拍手を!」
なんてこった。てっきり罰則のひとつでもあるのかと思いきや、ハウルを擁護する側の人間はいないらしい。それを裏付けるかのようにアナウンスの後にふわりと聞こえ始める拍手の嵐。
なるほど、と小さく呟いた俺はそのまま闘技場を後にした。
「カズマさん、大丈夫ですか?」
すっ、とガレさんが真横に並んで歩いてくれている。それだけで矮小な俺の、張り裂けそうな心がいささか安らいだ。気がする、多分。
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