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決闘のあった日は基本的に休みになるらしいのだが、始業式の後の恒例行事が目白押しなので特例として休みがなくなった。
余談ではあるが、教職員にマーリンが確認をとったところ、代休という考え方はないらしい。
恒例行事とは何か。
教科書の配布、日程表の配布など基本的にはカバンに詰め込んでおくものばかり。しかも学校の時間割通りに配布だからめんどくさいことこの上ない。
だがこの魔法の蔓延る世界、空間魔法のひとつでもあってそこに入れとけばいいのではなんて考えは周りを見わたした後、ゴミ箱に葬り去られた。
「付き人に持たせるのね」
「あ、カズマさんは自分で持ってくださいね」
「今日の晩御飯、納豆を添えるよ」
「…!も、もう一声!」
ガレさんは納豆にどハマりしている。ハデスの側近だった時代、地球(だいたい日本)の物産品をサンプルとして持ち帰った時「水戸納豆」をハデスの命で毒味させられたらしい。
ネバネバして、少し生臭さのある匂い。
これに醤油や塩、地域によっては砂糖を入れて食べると思うと日本の感覚がわからない。と当時は思っていたらしい。
だが一口食べた瞬間、見た目と相反した味と香り。豆がほろりと口の中でとろけ、独特の粘りと相まって今までにない心地よい気持ちに包まれた、と。
それからと言うもの、俺に会うまでは毎日納豆の俵にして四つは食べていたそうな。
俺に会ってからは一口も食べていない。
否、食べることができないのだ。
理由はハデスにある。ハデスのいる魔界には毎日、地球からの物産品が届けられ、その中に水戸納豆が入っていた。それを食べる物好きは他にはおらず、届くやいなや破棄されているとの事。ガレさんは破棄寸前の納豆を買い取り食べていた。
つまり、ガレさんがいなければ納豆は破棄されてしまっている。
だがハデスの側近のメイドの新人ちゃんがその任を引き継ぎ、買い取っては時間停止魔法をかけて保管していることを知らない。
そしてその納豆を俺が取り寄せられることも…。
「九条ねぎの粗みじん切りは最初からあるぞ」
「やだカズマさん。九条ねぎだと甘みが強すぎます。千葉県産のねぎを所望します」
「よかろう」
「では荷物、お持ちしますね」
交渉が成立したガレさんのスマイルはさながら、観音様の後光をまとったかのように輝いていた。か、可愛い。
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