547人が本棚に入れています
本棚に追加
それから2日ばかり経ち、物覚えの良い方の人間のはずの俺がクラスメートの名前を覚えられなくてどうしようと適当な嘆きをお目覚め一番に叫んだ朝。
「おはよう破壊者」
「おやすみなさい」
「えぇぇ…」
気のせいだ、絶対気のせいだ。
俺しか入れない自室に、何故あのやたら名前が長い勇者が入ってきてるのか。しかもそこそこに露出度の高い服装で。
それに何故ガレさんが俺の部屋もとい俺の家への入室を許可したのか。わからない。
ハデスからの命もあるわけだし、この場で勇者を殺してしまうのもテだが朝一番からスプラッタ映像は重たい。朝食にチーズハンバーグのデミソースかけに名古屋名物味噌カツが添えられる以上の濃さだ。いや食べ物で例えるのはどうかと思うが、寝起きからまだ30秒も経っていない故の思考力のなさよ、許せ。
夢だ、夢に違いないと再び俺は布団に潜り込みつつ体を攀じる…ん?
「むにゃむにゃ…カズマしゃぁぁぁん」
「マジか」
左向きだった体を右側によじると、救命講習で習う救助者の回復体位のような格好でとろけた寝顔でむにゃむにゃ言ってるうちのメイドさんことガレさんが眠っていた。…ネグリジェで。
「ほう、貴様は付き人と一夜を共にする人間だったわけか。」
「そんな、滅相もある」
「とぼけん…え?」
「割としょっちゅう、一緒に寝てる(添い寝的な意味で)」
「…そ、そうか。すまない、突然押しかけて」
名前が長すぎて覚えきれない勇者は踵を返し、部屋を後にした。…ガレさんがここにいるってことはアイツ不法侵入したのか。あるいは寮長かマーリンに言って鍵を…?
いや、俺の事情を知るマーリンのことだからその線はきっとな……
「カズマしゃぁん」
起き上がろうとした瞬間、細い割にやたら膂力のあるガレさんの腕が俺にしゅるりと絡みつき、やがて俺はガレさんの鎖骨あたりに顔を押し付けられるような格好で抱き寄せられた。
「あ、さっきはすまな…イヤァァァァァァァァァァ!不潔、不浄、不純!」
タイミングの悪いことに、名前が長すぎる勇者がまた戻ってきてしまう。
絵面的には俺がガレさんの体にキスしてるような格好にきっと見えるからな。
でもね、見た目に相反してガレさんの鎖骨が右目をふにゅふにゅ潰してるから結構辛いのよ。
あといい匂いだけど若干ねぎ臭い、ガレさん。
最初のコメントを投稿しよう!