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数分後、何故か俺は正座をさせられている。不幸だ。
「貴様、節操というものを知らんのか!」
「初耳っす先輩」
「そうか、すまない…って!開き直るな貴様!つ、付き人と朝からあんな破廉恥な行為を…み、み、見損なったぞ!」
ペンギンのモノマネをするような姿勢で顔を真っ赤に染め、それこそ赤ら顔で勇者が叫ぶ。どうすんだガレさんが起きたら…
「なんの騒ぎです…ってあれ、勇者さんじゃないですか。不法侵入ですか?」
「あ、ガレさんおはよ。」
「おはようございますカズマさん。ひとまず不法侵入だろうが合法的な侵入だろうがお客様ですからお茶でも出しますね。
ほいっと」
可愛らしい叫びと共に指を鳴らすと見慣れたメイド服に姿が変わる。…どっかのライダーやらヒーローも真っ青な速さだ、見習え見習え。
あくびをしながらポコポコと泡が弾けたように寝ぼけまなこでお茶っ葉入れを開け、急須に茶葉を入れる。
約45℃のぬるま湯を注ぎ、蓋をして蒸らす。その後均等に三つ、湯呑みに一番茶を注いだら二杯目のお湯を急須にいれ再び三つの湯呑みに入れる。
さすがガレさん、よくわかってらっしゃる。お茶はややぬるめのお湯で蒸らすと旨味と甘味が増すって誰かが言ってた。熱すぎると確か苦くなるらしいね、知らんけど。
作法によりけり、と言ってしまえばそれで終わりなのでこの方法が正しいとは思えないが日々努力するガレさんには頭が下がる。
「お茶です」
ドジっ子メイドにありがちな、つまづいてお茶ブッシャーな展開もなく、また移動時の音もなくガレさんは慣れた手つきでお茶を出す。よい香りだ。
「勇者さんはこれをご存知ですか?」
「茶と言えば紅茶しか知らない。…やけに緑色が強いが」
「あ、原料は紅茶と一緒ですがこれは若葉のみを厳選して熟成をさせずに乾燥させたものを破砕してお湯を注いだものです。」
「なるほど…」
湯呑みを片手で持ち、くいっとお茶を一口含む勇者。次の瞬間、彼女は目を見開き叫ぶ。
「う、う…うまい!なんだこの味は!
渋みと旨味と苦味の合間から溢れる甘味!そして飲みやすいこの温度!それでいて温くはない程よい。
初めて飲んだ…!」
勇者、緑茶にハマったらしい。緑色だから毛嫌いする人もいるというのに、珍しい。珍しいから雪でも降るかもしれんな。
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