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数分たっぷりとしどろもどろした俺とガレさんは、すっかり人肌程に冷めたねこまんまを器に盛りつけ、トーリ先輩に渡す。
がつ、がつ、と食べるわけでもなくゆっくりしっかりと咀嚼し、ほっとしたような表情を滲み出したトーリ先輩は約2.5人前くらい用意したねこまんまをぺろりと平らげ、今度こそ部屋を後にした。
まるで南国オーストラリア名物のスコールのような人だった、と俺はその後に思うのだが、後でなければ思えなかったのにも無論理由はありまして。
「カズマさん、さっきの話ですが」
ようやくソファにどかりと座れたなと、年相応ではない背伸びし過ぎた疲労感を観音開き気味な脚と共に広げていると、すっとガレさんが隣にかしこまりながら座る。
さっきのことを思い出してしまった俺は足先から頭の先までふわっと重力から解放されたような浮遊感を覚えたと同時に顔がほんのり火照り始めたらしく、熱い。
何か喋りたいのだが唇がひどく乾き、開こうにも開けない。口の中から徐々に舌でこの乾きを潤しているとガレさんは、はぁっとため息をして言葉を紡ぐ。
「い、今、今はまだ…私はこの先のことを考えられません。
ですが!わ、私はカズマさんを、ずっと…ずっと、これからもお慕い申しております!」
「お、お、おう…」
ようやく捻り出せた言葉はとても素っ気のない返事だったが、万年DTの俺にしては偉大な一歩だと自画自賛気味に微笑んだ。
「こ、これからもよろしくお願いします。
あ、あ、あ、あと。
私のことは出来れば「ガレ」と呼び捨ててください!わ、私も可能ならばカズマ、と呼び捨ててお呼びしたいので…
ダメ、…でしょうか?」
ふわりと柔らかく、甘い香りが濃くなったなと感じた頃にはガレさんは俺に抱きついており、彼女の決意に満ちた声は俺の左耳のやや後ろから確かに聞こえた。
俺は抱き返すことも、突き放すこともせず、そのまま自然体を保ちながらガレさんのようにため息をはっと吐き出す。
「あぁ。わかったよ、ガレ」
いやにハッキリと言えてしまった彼女への新しい呼び方。
むず痒く感じたのもつかの間、俺の乾きに乾ききった唇にまるで雲のような感触。
眼前に広がるガレさんの潤んだ瞳。
俺、ファーストキスを奪われました。
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