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「い、一応念のためですが…そ、そ……その………」
体を元の体勢に戻しつつ、指いじりをしながら俯き、今にも機関車が出発進行しそうな勢いで顔を上気させているガレさん。
俺は取り乱したり慌てたりはせず、ただただ今数秒前の光景を反芻しつつ唇に指を当てては離すを繰り返す。
「私と、カズマさん…あとミカサで一夫多妻になったとしてもですね…うっ、グスッ」
降り始めた雨が如く、彼女は涙を流す。
「間違いなく…カズマさんが先に亡くなってしまいます……。」
彼女はこの先のこと…、百年とも70年ともわからぬ「俺が老いて果てる先」を見据え、自らの寿命と俺の人間としての寿命の途方もない差に苦しめられている。
まるで不老不死の自らの運命を呪うように。
「カズマさんが死んだら…!」
俺はここまでの流れで、彼女がこの先滑らすセリフに予測がついた。だがそれは眷属契約の時の違反行為…「俺の為に死ぬな」という契約違反に当たるとして、彼女の薄い唇に俺の人差し指をあてがい静止する。
数秒の後、合点がいったのだろうか無言で頭を数回上下する。
「そ、そうでした…。」
「物分かりがよろしいようで。
…俺とガレ、ミカサさんとの寿命の差はどうしようもない。
ガレやミカサさんが不老不死の力を取り除いたとしてもだ。結果はあまり変わらないだろう。
それに気付けよ。死んだら行き着く先をさ。」
「…魔界」
大抵、死んだら魔界行きなのだ。
天国と地獄の概念がないと言われているこの世界では死者の管理は魔界が一任している。
思い出して欲しい。俺達が旅立つ前、どこにいたのかを。
「ガレは俺が死んだら、魔界に戻ればいい。俺は死者として魔界に残る。
老後は任せたぜ」
柄にもない、グリンスマイル(歯を見せ笑う様)にサムズアップを披露するとガレさんはほわりと笑顔を取り戻す。
表情変化の薄い彼女が珍しく、わかりやすい表情を浮かべた。かわいい。
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