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ついこの間まで暑かっただけの夏。
アニキが死んだ。事故だった。
その日。大学の夏休みはとっくに始まっていて、短期バイトで採用された大須商店街の洋菓子店でアイスクリームを売っていた。
毎日あっちーな。鳩ここまで来んのか。ミントチョコの味見してえな。
ちょうど客足が切れて、高校生のバイトと無駄にじゃれ合っていた時に父親から着信が入った。
『バイトからすぐに帰って来い』
東京行きの新幹線に両親と飛び乗った。揺れる車内で、俺の頭の中もグラグラに揺れていた。
アニキと最後に会ったのはいつだっけ、最後に電話で話したのはいつだっけ、最後のメールは何だっけ。記憶の中でアニキと俺のタイムラインを猛烈なスピードでさかのぼった。
車窓の景色がビュンビュンと流れていくよりも速く、アニキは家族の誰も知らないところへとビュンと流れて行ってしまった。
アニキは勤めていた会社の社用車を運転していた。高速道路での事故。会社の上司・役員から事情の説明を受けた。警察から状況の説明を受けた。病院から外傷の説明を受けた。どれもこれも、ぜんぜんわからなかった。
家族は、アニキでなくなってしまったアニキを引き取って、あれこれを済ませて、地元に戻ってきた。
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