松川・柴田・妹

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 伊東せなの振りに、ファンたちが大いなる期待を込めた目をステージに向けた。 「ありさです。よろしくお願いしまあす!」  一番右側の一人目の子が高いトーンでかわいく自己紹介をすると、「ありさちゃーん!」と早速会場から声が上がる。 「真美です。よろし」 「真美ちゃーん!」 「コリンです。よろ」 「コリンちゃーん!」 「里香です。よ」 「里香ちゃーん!」  最後の「里香ちゃーん」のところで柴田が野太い声を熱烈に張り上げたから、俺は倒れそうなくらいに驚いた。  四人のうち、お前の推しはこの子か。左側に寄ってきたのはそれが理由だったのか。ファンたちの気合いと一体感もハンパない。  それにしてもアイドルの名まえ、聖子とか敦子とか幸子とか言わないけど、子はいねえのかよ。ンはありなのかよ。 「まさかお前の妹、ンじゃねえよな」 「は、何意味わかんねえこと言ってんの。新人アイドルに興奮するな。カミングアウトには刺激が強いか」  どこからのカミングアウトだよ。ここに誰を見に来たんだ、ってことだろ。 「俺の妹は一番左」  里香ちゃーんだ。「へえ」と再びステージに注目する。柴田の妹はステージが初めてとは思えないくらいに堂々としていて、ステップもターンもグループのユニゾンにきっちりとはまっていた。  何よりも目の表情が良い。満月になったり三日月になったり、一回のステージでいくつもの月日を巡るようだ。 「めちゃくちゃかわいいな。お前とは全然似てねー」 「あったりまえだよ。血繋がってねえんだから」  え?
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