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「ペンギン二号さん、ちょっとカメラ持ってそこの氷塊の水の中の様子見てきてくれない?」
「りょー」
どんな仕事にも不平を漏らさずきっちりと期待した成果を持ってきてくれ帰ってきてくれるコウテイペンギン二号さんは素敵だ。
ひょこひょこと寸胴な身体(小型のカメラをリュックのように背負っている)を揺らせながら歩いていき、バイカル湖の氷上に開けた穴に飛び込む可愛い姿を見送りながら私はそう思った。
とはいえ、いつも二号さんとペアで働いてくれている一号さんは今日は非番であるので、その後ろ姿は少し寂しそうだった。
おっと、こうしていてはいけない。
こんな寒い中、健気に頑張ってくれるペンギン二号さんのために私は私の仕事をしなければ。
私は測量用の機材を運び込んでいる仮設テントに入ると中継モニターの周波数帯を調節した。
数秒調節ねじをひねるとノイズ混じりであるが、氷塊の形状がモニターに映った。
大きい。
バイカル湖表面の氷の上に飛び出している円錐状の角に似た氷からは想像できないほど、水中から見たそれは氷山と呼ぶにふさわしいほどの大きさだった。
二号さんのカメラではその全貌を捉えきれない。
湖底から浮かび上がってきた太古の氷塊に違いなかった。
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