業火

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業火

 それは数年程前の話であっただろうか。  少年は縄で縛られていた。街のど真ん中であった。少年の目の前には彼の父親が居た。少年はそれが何を意味しているのか分からなかった。少年は酷く混乱していた。彼の父親は先ほどからひたすら「ごめんな、ごめんな。」という言葉だけを数十回も繰り返していた。少年は父親の言葉の真意を探るべく、ひたすら父親の懺悔の言葉に耳を傾けていたが、結局分かることはなかった。何が『ごめんな』なのか、過去の自分への叱責なのか、それとも一家を貧しくさせてしまったことへの反省なのか。少年は思いつくだけの情報を充てていった。それも少年にとってただの言い訳に過ぎなかった。そうして少年は一時解ったような衝撃を得たが、解らなかった。それは少年自身が理解することを拒んだ末の衝撃であったのだ。解りたくもなかったのに、解ってしまった。少年は父親の真意を全て受け入れてしまった為に瞳から涙が溢れ出た。それでも少年は父親が何をされるか解る事はで きなかった。むしろ解りたくない気持ちか理解より先行してしまい、自分自身で自分を思考停止にさせた状態に近かった。     
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