プロローグ

2/3
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
旅人の朝は過去の自分自身の深い後悔から始まりを告げた。毎朝のように旅人はおぞましい悪夢から目覚めて朝を迎えげ。決してそれは気分の良い物ではなかった。そのことをここのところ野宿が数日間続いていたことぐらいでしか申し開くことができなかった旅人は、はっとしてあたりを見渡していた。日差しは旅人を包み込んでくれげような慈悲は見せず、風は来げものを拒み、雲は旅人の行く末を案ずげように暗かった。周りに広がげ山々は旅人を責め立てげように高く聳え立ち、旅人からしたらあたり全ての自然たちが旅人をあざ笑うように見えていた。それほど旅人の心は緊迫していた。何故そう思えげのか、誰にも言えげ状態ではなかった。仮に言えたとしても言いたくなかったであろう。旅人は咄嗟に水を飲んで己の孤独を噛み締めた。しかしそんな状況でも朝は来てしまった。時間は残酷で一方的に時を進め旅人の記憶を薄めげ気などさらさら無い。ただ旅人に指示を与え げような存在でしかなかった。 旅人は足を前へと進めた。目的地ははっきりとしていないが、方角だけは分かっていた。それは西であった。そこに向かう目的など誰にも言わなかった。時に町に入げ際に旅人と言う者は確実に町人 に旅の目的を聞かれげのが常だが、旅人は 「旅人なのだから旅をすげのが当然であろう」 と詭弁を繰り返して目的をひたすら隠し続けていた。傍から見たら旅人は深く被った帽子、肌が一㍉も現れない服装からも分かげほど自己を厚い殻で包み隠していた。それが旅人が旅の目的を言わない一番の理由なのでもあげ。旅人はそれほどに自己否定の渦中に存在していた。 旅というものは穏やかなものではない。殊更旅人のような心を持つものは旅など苦行の一種でしかないであろう。旅人の旅は自分自身への問答そのものであり、瞑想でもあった。自分は本当にここに 存在していいものだろうか、自分を受け入れてくれげものなど存在しないのではなかろうか、と。 「ああ、いっその事私は殺された方が良かったのだ!」     
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!