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静か過ぎる程の闇が空を覆っている──
だが、そのずっと先にはうっすらとした明けの薄空が霞んでいた。
魔界の森から人間界へと続く闇の空は捻れた空間を作り出す。
初めてルナを邸へと拐ったあの時のように──
グレイはルナを胸に抱き締めて、今度は人間界へと向かっていた。
グレイは飛行の速度を緩め、目を静かに閉じたままのルナを時おり覗く。
いつも騒々しい程に色んなことを考えては顔を赤らめ、涙ぐみ、怒る。そんなルナの心がまったく動かない──
もう二度と伝わってくることのない少女の心。
最初の頃はあの賑かなルナの感情が騒々しくて煩わしさを感じていた。
だがそれは慣れてくると次第に楽しくもあり知らぬ内に、胸を擽る何かを呼び起こした。
いつしかルナの感情に変化も何もないとつまらなくも思えてきて──
だからこそ、ルナの心を時おりわざと揺さぶり悪戯に荒立てた。
「──…っ…」
ルナの色んな表情を思い出し、グレイは急に顔を歪めてルナを強く抱き締める。
闇に包まれていた魔界の森の上空を背に過ぎると、朝を迎え、明け始めていた人間界の空がしっかり見えてきていた。
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