21章 禁断の書

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・ 少女から大人へと向かうルナを、端から見てもそれが可愛くてつい悪戯にからかってばかりだった。 「──…っ…」 ぐっと胸が詰まる── グレイはもう見ることのないルナの色んな表情を思い出し眉を寄せる。 「旦那様……ルナ様を還してお別れを……」 「……っ…」 モーリスの手が座り込んだままの背中を押すようにグレイの肩に乗る。 「さあ、柩の中に……」 「柩は必要ない…っ…」 「まだそのようなことをっ…」 そう返したモーリスにグレイは声を荒げた。 「還さんとは言わんっ…ルナは連れていくっ…このまま抱いて連れて行くからもうお前は黙れ!」 「───…」 感情も露に強く見据えてくる。そんなグレイにモーリスは息を止めて暫し食い入るように見つめ返した。 グレイはそんなモーリスから顔を背ける。 強(したた)かで冷酷── そんな闇の主としての威厳が保てない。 ぼろぼろに壊れた錠が外れ、今まで味わったことのない感情がグレイの胸の中で溢れていた。 グレイは立ち上がるとルナを抱き締める腕に力を込める。 「連れていく……っ…還したら直ぐに戻るからお前は居間で休んでいろっ」 「……──」 モーリスは苦し気に吐いて背を向けたグレイに掛ける言葉を見失っていた。 あまりにも悲痛だった── 柩に入れず、抱いたままでルナの亡骸と共に人間界に足を踏み入れる。 それはグレイ自身、ルナが灰に還るのを目にする覚悟を決めた証だった。 モーリスは背を向けたグレイにもう何一つ口にはしなかった。 グレイの躰がふわりとゆっくり宙に浮かぶ。 その身は天窓から月の輝く闇夜へと浮上し、魔界の森の上空にある異空を越えて人間界に向かっていった──
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