21章 禁断の書

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・ 「……っ…」 グレイは密かに眉をしかめた。 しまった──… 時間を取りすぎた。 グレイは小さな焦りを浮かべ、ルナを見た。 「……!?…」 間に合わない。 抱き締めていたルナの足がサラサラと砂のように崩れ消えていく。 人間界に降り立つまで、その土にルナを還してやれるまで、ルナの肉体が持たない── 先を進むにつれて、人間界の朝日が近付き、魔界の闇が遠退いていく── 月の力が弱まっていく。 グレイは崩れていくルナの躰を必死に掻き抱いた。 「早い…っ…まだ逝くなっ」 グレイの口からそんな言葉が叫ばれた。 急下降してグレイはまだ異空間の歪んだ地に足をつけ着地する。 捻れによって強い風が吹き荒れる。その間もルナの躰は止まることなく朽ちていく。 「ルナッ!…」 闇の主らしかぬ焦りと大声をグレイは露にした。 上空で砂になり翔んでいったルナの足はもう膝から下がない。 下に下ろして上半身だけを抱き上げると、膨らんでいた花嫁衣装のドレスのスカートは次第にペタリとなって抜け殻になっていく…… グレイはドレスの裾をめくって目を見開いた。
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